秘密の地図を描こう

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 キラの表情がこわばっている。
 それはどうしてなのかは確認しなくても答えがわかった。
「大丈夫ですよ、キラ」
 ともかく、明るい口調で声をかけてみる。
「バルトフェルド隊長がおいでですから」
 オーブには、と続けた。
「うん……そうなんだけど……」
 問題はカガリの性格だ、とキラは言い返してくる。
「国のためと言われたら、きっと、拒めない」
 彼のそのつぶやきにニコルも同意せざるを得ない。アマルフィの後継として自分もそのように教育されてきたのだ。
 しかし、だ。
 自分達のそれと彼女のそれは違う。
 彼女のそれは世界の情勢をひっくりかねない。
「ラクスさんがいらっしゃるのでしょう? それに、バルトフェルド隊長も。だから大丈夫ですよ」
 彼らが適切な対処をしてくれるはずだ。そう続ける。もちろん、それが気休めだと言うことはニコル本人にもわかっていた。
「そう、だね」
 だが、キラにはその気休めが必要だったのだろう。小さくうなずいている。
「議長もこの報告は受け取られているはずですから、誰かをフォローに行かせているのではないですか?」
 プラントからすれば、今回の婚姻はマイナスだ。だから、対処をとっているに決まっている。
「まぁ、できればミゲルがいければ、一番いいのでしょうけどね」
 彼はフリーでは動けないから、他の誰かが行くのだろう。
「もしくは僕ですが……そうなると、キラを見張っていられる人間がいなくなりますからね」
 そちらの方が問題だ、と言い切った。
「……それはなんか、違うと思うんだけど……」
 自分の存在よりもオーブのごたごたの方が重要ではないか。キラはそう言い返す。
「僕にとってはキラの方が重要です」
 そう考えているのは自分だけではないはずだ。
「キラがその気になれば、世界をひっくり返すことができますよ」
 自分のようにキラに協力をしようとする人間は多いだろうから、とニコルは微笑む。
「……ニコル……」
「大丈夫ですよ。何と言っても議長も同じお考えだそうですから」
 当然、ラウもだ。
「ラクスさんもそうお考えだと思いますよ」
 この言葉に、キラは深いため息をつく。
「だから、僕には『下手に動くな』とみんな言うんだね」
 それなのに、ラクスは自分に《戦うための力》を用意してくれている。
「僕は、どうすればいいのかな」
 さらに彼はこう呟く。
「まだ、悩んでいていいと思いますよ。そのくらいの時間稼ぎなら、ミゲルでもできるはずです」
 だから、好きなだけ悩んでくれ。そういえば、キラは淡い笑みを浮かべた。

 いったい、誰がこれを動かしているのか。
 式場からさらわれた、と言うよりもそちらの方がカガリには重要だった。
「誰が操縦しているんだ?」
 最初はバルトフェルドかと思った。しかし、キラ以外にこれをここまで見事に操縦できる人間がいるとは思えない。
「アスランでもないな」
 彼がまだ、プラントから帰ってきていないはずだ。そう呟いたときだ。ハッチが開けられる。
「入れ」
 低い声が耳に届く。聞き覚えがないはずの声なのにどこか懐かしく感じるのは、きっと、キラが持っている声の響きと似ているからかもしれない。
「……誰だ?」
「詳しいことは、ラクス・クラインに聞け」
 カガリの問いかけを彼はあっさりと受け流す。同時に、手を伸ばすと彼女の腕をつかんだ。
「ただ、これだけは教えてやる。この結婚式が終わっていたら、お前は、お前の大切なものを間接的に殺していたかもしれない、とな」
 この言葉に、反射的に彼の顔を見つめる。そうすれば、記憶の中のキラのものとよく似た紫の瞳が彼女を見返してくる。
「誰だ、お前は」
 もう一度、カガリは問いかける。
「そうだな……お前の片割れと縁があるものだ、とだけ言っておくか」
 詳しいことは教えられないが、と彼は言う。
「それよりも、しっかり捕まっておけ。お前の兵士を殺したくなければな」
 この言葉とともに彼は口をつぐむ。つまり、それ以上は自分に教えるつもりはないと言うことだろう。
「……ラクスには文句を言ってやらないとな」
 小さな声でそう呟く。それだけがこの場で彼女にできた不満の表明だった。

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最遊釈厄伝